問題文全文
関数 \(f(x)\) を \(\displaystyle f(x)=\int_0^x\frac{dt}{1+t^2}\) と定める.
(1) \(t=\tan{\theta}\) とおく置換積分法により, \(f(1)=\displaystyle \int_0^1\frac{dt}{1+t^2}\) の値を求めよ.
(2) \(0<a<1\) とし, \(m\) を自然数とするとき, 以下の不等式が成り立つことを示せ.
\begin{align} f(a) \displaystyle \int_a^1x^mdx< \int_a^1 f(x)x^mdx< \int_0^1 f(x)x^mdx <f(1) \int_0^1 x^mdx \end{align}
(3) \(\displaystyle \lim_{m\rightarrow \infty}\left(1-\frac{1}{\sqrt{m}}\right)^m\) を求めよ. 必要ならば\(s>1\)のとき \(\displaystyle \left(1-\frac{1}{s}\right)^s<\frac{1}{2}\) となることを用いてよい.
(4) \(\displaystyle \lim_{m\rightarrow \infty} m \int_{1-\frac{1}{\sqrt{m}}}^1 f(x)x^mdx \) を求めよ.
(1)の解答
\(t=\tan{\theta}\) より, \(x:0\rightarrow 1\)のとき, \(\displaystyle \theta :0\rightarrow \frac{\pi}{4}\)であり, \(\displaystyle dt=\frac{1}{\cos^2{\theta}}d\theta\)であるから,
\begin{align} \int_0^1\frac{dt}{1+t^2}=\int_0^{\frac{\pi}{4}}\cos^2{\theta} \cdot \frac{d\theta}{\cos^2{\theta}} = \int_0^{\frac{\pi}{4}} d\theta =\biggl[ \theta \biggr]_0^{\frac{\pi}{4}} = \frac{\pi}{4} \end{align}
(2)の着眼点
① インテグラルの中身は \(x^m\)が共通しています。違いは \(x^m\) にかけられている関数が\(f(a)\) と \(f(x)\) と \(f(1)\) であることです。そしてその順に大きくなっていっています。\(f(x)\)が単調増加だったら嬉しいです。
② 積分区間が \(a≤x≤ 1\) の部分と \(0≤x≤1\) の部分があります。もし①で \(f(x)\) が単調増加と言えれば面積比較でいけそうです。
③ \(f(x)\) が単調増加であることを示すには, 導関数が正であることを示さないといけません。積分範囲に変数が含まれているので
\begin{align}\frac{d}{dx}\int_a^x f(t)dt=f(x)\end{align}
を利用して微分することになりそうです。
(2)の解答
\(\displaystyle f'(x)=\frac{1}{1+x^2}>0\)より, \(f(x)\) は \(0≤x≤1\) において単調増加である.
よって, \(0≤x≤1\) において \(f(x)<f(1)\) であり, \(x^m≥0\) であるから
\begin{align}f(x)x^m<f(1)x^m\end{align}
\begin{align} \int_0^1f(x)x^mdx<f(1)\int_0^1x^mdx \cdots ① \end{align}
また, \(f(x)\) と \(x^m\) は \(0≤x≤1\) において単調増加であるから積 \(f(x)x^m\)も単調増加である. よって図より面積を比較して,
\begin{align}\int_a^1f(x)x^mdx<\int_0^1f(x)x^mdx \cdots ②\end{align}
さらに, \(a≤x≤1\) において \(f(x)\) は単調増加であることと, \(x^m≥0\) であることから
\begin{align}f(a)x^m<f(x)x^m\end{align}
\begin{align} f(a)\int_a^1x^mdx<\int_a^1f(x)x^mdx \cdots ③\end{align}
①②③より
\begin{align}f(a) \int_a^1x^mdx< \int_a^1 f(x)x^mdx< \int_0^1 f(x)x^mdx <f(1) \int_0^1 x^mdx.\end{align}
(3)の着眼点
①式の形から \(s=\sqrt{m}\) とおけばよさそうです。
②不等式が与えられているときに極限値を求める問題でははさみうちが有効です。
(3)の解答
\(s=\sqrt{m}\) とおくと, \(m=s^2\). \(m\) は自然数であるから,
\begin{align} 0<\left(1-\frac{1}{\sqrt{m}}\right)^m= \left(1-\frac{1}{s}\right)^{s^2}= \left\{\left(1-\frac{1}{s}\right)^s \right\}^s <\left(\frac{1}{2}\right)^s \end{align}
\(m\rightarrow \infty \)のとき \(s\rightarrow \infty \)であり, \( \displaystyle \lim_{s\rightarrow \infty}\left( \frac{1}{2}\right)^s =0\)であるから, はさみうちにより
\begin{align}\lim_{m\rightarrow \infty}\left(1-\frac{1}{\sqrt{m}}\right)^m=0\end{align}
(4)の着眼点
① (2)で不等式を証明してからの極限という流れなのではさみうちを使うことになりそうです。
② (2)の不等式で\(\displaystyle a= 1-\frac{1}{\sqrt{m} }\)とおけば(4)の形が出てきそうです。
③ (2)式の不等式の一番左の式に \(\displaystyle a= 1-\frac{1}{\sqrt{m}}\) を代入すると\( \displaystyle f\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}} \right)\)という形が出てきますが, この極限値をどうやって出すのかが時間をかけて考えるポイントになりそうです。
④ わざわざ(3)があるのですからきっとどこかで使うはずです。
⑤ 極限の式が(m)倍されているのは次数合わせ(有限の値に収束するように)でしょう。
⑥ (1)は使えるかもしれないし, ただのサービス問題だった可能性もあります。一応使うかも知れないと軽く意識はしておきます。
(4)の解答
\(m\) は自然数なので, \(\displaystyle 0< 1-\frac{1}{\sqrt{m}} <1\)であるから, (2)の不等式において \(\displaystyle a= 1-\frac{1}{\sqrt{m}} \)とできて
\begin{align}f\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}} \right)\int_{ 1-\frac{1}{\sqrt{m}} }^1x^mdx < \int_{ 1-\frac{1}{\sqrt{m}} }^1f(x)x^mdx < f(1) \int_0^1 x^mdx \end{align}
\begin{align} f\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}} \right) \left[\frac{m}{m+1}x^{m+1}\right]_{ 1-\frac{1}{\sqrt{m}} }^1<m \int_{ 1-\frac{1}{\sqrt{m}} }^1f(x)x^mdx <\frac{\pi}{4} \left[\frac{m}{m+1}x^{m+1}\right]_{ 1-\frac{1}{\sqrt{m}} }^1 \end{align}
\begin{align}\frac{m}{m+1} f\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}} \right) \left\{1-\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}}\right) ^{m+1}\right\}< m \int_{ 1-\frac{1}{\sqrt{m}} }^1f(x)x^mdx < \frac{\pi}{4} \cdot \frac{m}{m+1} \cdots ④\end{align}
ここで, (3)より
\begin{align}\lim_{m\rightarrow \infty}\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}}\right) ^{m+1} = \lim_{m\rightarrow \infty} \left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}}\right) ^m\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}} \right)=0\cdot \left(1-0\right)=0\end{align}
また, \(f(x)\) は \(0≤x≤1\) において連続であるから
\begin{align} \lim_{m\rightarrow \infty} f\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}}\right) =f(1)= \frac{\pi}{4} \end{align}
さらに
\begin{align}\lim_{m\rightarrow \infty} \frac{m}{m+1} = \lim_{m\rightarrow \infty} \frac{1}{1+\frac{1}{m}}=\frac{1}{1+0}=1\end{align}
であるから
\begin{align} \lim_{m\rightarrow \infty} \frac{m}{m+1} f\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}} \right) \left\{1-\left( 1-\frac{1}{\sqrt{m}}\right) ^{m+1}\right\} =1\cdot \frac{\pi}{4} \left(1-0\right)= \frac{\pi}{4} \cdots ⑤\end{align}
\begin{align}\lim_{m\rightarrow \infty} \frac{\pi}{4} \cdot \frac{m}{m+1} = \frac{\pi}{4} \cdot 1= \frac{\pi}{4}\cdots ⑥\end{align}
④⑤⑥よりはさみうちが使えて
\begin{align}\lim_{m\rightarrow \infty} m \int_{1-\frac{1}{\sqrt{m}}}^1 f(x)x^mdx = \frac{\pi}{4} \end{align}
まとめ
この問題を通して吸収したい考え方は以下の3つです。
① 「不等式の証明」→「極限値を求める」の流れの問題ははさみうちが有効
② 関数の単調増加(減少)もしくは関数の増減を利用して不等式を作る
よくある例:\(\displaystyle f(x)=\frac{\log x}{x}\) のグラフの増減を利用して \(e^{\pi}\) と \({\pi}^e\)の大小関係を調べる。(ちなみに\(e^{\pi}<{\pi}^e\)です。)
③ 関数 \(f(x)\) が定義されている区間の各点で連続であれば”\(f\) と \(lim\) が交換可能”つまり
\begin{align} \lim_{n \rightarrow \infty}f(x_n)=f\left(\lim_{n\rightarrow \infty}x_n \right)\end{align}
※補足しておくと \(f(x)\) はいわゆる逆三角関数 \(\tan^{-1} x\) です。