今回はtwitterでフォロワーの方から良問ということで情報提供いただいたこちらの問題を解説していきたいと思います.他にもぜひこの問題を扱ってほしいなどございましたらリクエストいただければ優先的に扱っていきたいと思います.ただし, コーナーの趣旨として理科大の過去問に限ります.
問題文全文
\(x\) の関数 \(f(x), F(x)\) が, 関係
\begin{align}F(x)=\int_1^x f(t)\sin(x-t)dt\end{align}
を満たすとする. このとき, 次の問いに答えよ.
(1) 正弦の加法定理を用い, \(F(x)\) の第2次導関数 \(F^{\prime\prime}(x)\) を \(f(x)\) と \(F(x)\) で表せ.
(2) \( F^{\prime\prime}(x) =\log x\) として, \(F(x)\) を求めよ.
(3) (2)の場合について, \(f(x)\) を求めよ.
問題の着眼点
① 正弦の加法定理を使うよう指示があります. 正弦の加法定理は以下のとおりです.
\begin{align}\sin(\alpha \pm\beta)=\sin \alpha \cos \beta \pm \cos \alpha \sin \beta \end{align}
② 積分区間に変数が入っています.
\begin{align}\frac{d}{dx}\int_a^x f(t)dt=f(x)\end{align}
を利用して微分することになりそうです. その際気をつけなければならないのが被積分関数が \(x\) を含んでしまっていることです.
上の微分公式を使うには被積分関数が \(t\) だけの式である必要があります. つまり, \(x\) の式をインテグラルの外に出す必要があります.
さらに, \(x\) の式をインテグラルの外に出した場合 \(x\) の式と \(x\) の式の積という形を微分することになりますので, 積の微分をしなくてはいけません.
③ 問題文全体を見ると, (2)の問題がこれ単独でも解ける問題になっています. (1)が解けなくても(2)だけでも解いて部分点をもらいにいくという姿勢が大事です. 2 回不定積分を解くだけですがその際に積分定数が出てきてしまいます.
\begin{align} \int_a^af(x)dx=0\end{align}
であることを使えばすぐに積分定数が求められそうです.
ちなみに \(\log x\) の不定積分はよく出てくるので, いちいち部分積分で求めるのではなく結果を暗記しておくべきです.
④ (1)の問題文によると, \(f(x)\) は \(F(x)\) と \( F^{\prime\prime}(x)\) だけで表せるようです. \(F(x)\) と \(F^{\prime\prime}(x)\) は(2)で求めるので(3)はサービス問題ということが分かります. 実質(1)がこの問題の中心なので(1)にはしっかり時間をかけていいという判断ができます.
⑤ 勝手な推測ですが受験生全体の正解不正解の分布は
白紙解答((1)ができないためにそれ以降もできないと勝手に判断した)の層
→(2)のみ解けた層
→全問正解の層(部分的な減点も含む)
の順に多いと思います.
(1)の解答
\begin{align} F(x)=\int_1^x f(t)\left(\sin x\cos t-\cos x\sin t\right)dt\end{align}
\begin{align}=\sin x\int_1^xf(t)\cos tdt-\cos x\int_1^xf(t)\sin tdt\end{align}
\begin{align}F^{\prime}(x)=\cos x \int_1^xf(t)\cos tdt +\sin xf(x)\cos x+\sin x \int_1^xf(t)\sin tdt -\cos xf(x)\sin x\end{align}
\begin{align} F^{\prime}(x)=\cos x \int_1^xf(t)\cos tdt +\sin x \int_1^xf(t)\sin tdt \end{align}
\begin{align}F^{\prime\prime}(x)=-\sin x \int_1^xf(t)\cos tdt +f(x)\cos^2x+\cos x \int_1^xf(t)\sin tdt +f(x)\sin^2x\end{align}
\begin{align}=f(x)\left(\sin^2x+\cos^2x\right)-F(x)\end{align}
\begin{align}F^{\prime\prime}(x)=f(x)-F(x).\end{align}
(2)の解答
\(F^{\prime\prime}(x)=\log x\) より
\begin{align}F^{\prime}(x)=x\log x-x+C_1\end{align}
\(F^{\prime}(1)=0\) より, \(C_1=1\)
\begin{align}F^{\prime}(x)=x\log x-x+1\end{align}
\begin{align}F(x)=\frac{1}{2}x^2\log x-\int\frac{1}{2}x^2\times \frac{1}{x}dx-\frac{1}{2}x^2+x+C_2\end{align}
\begin{align}=\frac{1}{2}x^2\log x-\frac{1}{4}x^2-\frac{1}{2}x^2+x+C_2\end{align}
\begin{align}=\frac{1}{2}x^2\log x-\frac{3}{4}x^2+x+C_2\end{align}
\(F(1)=0\) より \(\displaystyle C_2=-\frac{1}{4}\)
\begin{align}F(x) =\frac{1}{2}x^2\log x-\frac{3}{4}x^2+x -\frac{1}{4}.\end{align}
(3)の解答
\begin{align}f(x)=F(x)+F^{\prime\prime}(x)\end{align}
\begin{align}=\frac{1}{2}x^2\log x-\frac{3}{4}x^2+x-\frac{1}{4}+\log x\end{align}
\begin{align}f(x)=\frac{1}{2}\left(x^2+2\right)\log x-\frac{3}{4}x^2+x-\frac{1}{4}.\end{align}
発展(2階非同次線形微分方程式と未定乗数法)※大学レベル
今回出てきた
\begin{align}F^{\prime\prime}(x)+F(x)=f(x)\cdots ①\end{align}
という式は 2 階非同次線形微分方程式といわれるものになっています. 右辺を 0 にした 2 階同次線形微分方程式
\begin{align}F^{\prime\prime}(x)+F(x)=0\cdots ②\end{align}
の一般解を \(F_c(x)\) とし, ①を満たす特殊解を \(F_0(x)\) とすると, ①の一般解 \(F(x)\) は\(F(x)=F_c(x)+F_0(x)\) とかけることが知られています.詳しいことは割愛しますが, ②の一般解(余関数)\(F_c(x)\) は特性方程式 \({\alpha}^2+1=0\) の解 \(\alpha =\pm i\)を用いて
\begin{align}F_c(x)=C_1\cos x+C_2\sin x \end{align}
と表されます. ①の特殊解について\( f(x)\) が多項式や三角関数や指数関数で表されている場合は, 未定乗数法というものを用いて求めることができます.
今回は\(\log x\) が含まれているため一般には難しい(はず)ですが, 未定乗数法と同様の計算でたまたまうまく特殊解が見つけられましたので下に記しておこうと思います.一般にはロンスキー行列式を用いた解法で解けるはずと思い, やってみましたが \(\log x\) と三角関数と多項式の積を積分することになり心が折れました.
\(f(x)\) から \(F(x)\) を求めてみた ※大学レベル
今回の入試問題では \(F(x)\)(正確には \(F^{\prime\prime}(x)\)ですが)が与えられたときに\(f(x)\)を求めるという流れでした.逆に \(f(x)\) が与えられたときに \(F(x)\) を求めてみたいと思います.以下の 2 階非同次線形微分方程式を解けばいいことになります.
\begin{align}F^{\prime\prime}(x)+F(x)=\frac{1}{2}\left(x^2+2\right)\log x-\frac{3}{4}x^2+x-\frac{1}{4}\end{align}
を初期条件 \(F(1)=0, F^{\prime}(1)=0\) のもとで解け。
対応する同次線形微分方程式の特性方程式 \({\alpha}^2+1=0\) の解は \(\alpha =\pm i\)より余関数は\(F_c(x)=C_1\cos x+C_2\sin x\) である.
また, 特殊解を
\begin{align}F_0(x)=\left(Ax^2+Bx+C\right)\log x+Dx^2+Ex+F\end{align}
とおくと,
\begin{align}{F_0}^{\prime}(x)=(2Ax+B)\log x+\left(Ax^2+Bx+C\right)\times \frac{1}{x}+2Dx+E\end{align}
\begin{align}=(2A+B)\log x+(A+2D)x+(B+E)+C\times \frac{1}{x} \end{align}
\begin{align}{F_0}^{\prime\prime}(x)=2A\log x+(2Ax+B)\times \frac{1}{x}+A+2D-C\times \frac{1}{x^2}\end{align}
\begin{align}=2A\log x+(3A+2D)+B\times \frac{1}{x}-C\times \frac{1}{x^2}\end{align}
与えられた微分方程式に代入して,
\begin{align}\left(Ax^2+Bx+2A+C\right)\log x+Dx^2+Ex+(3A+2D+F)+B\times\frac{1}{x}-C\times\frac{1}{x^2}=\frac{1}{2}\left(x^2+2\right)\log x-\frac{3}{4}x^2+x-\frac{1}{4} \end{align}
であるから,
\begin{align}A=\frac{1}{2}, B=0, 2A+C=1, D=-\frac{3}{4}, E=1, 3A+2D+F=-\frac{1}{4}, C=0 \end{align}
これらを解いて
\begin{align}A=\frac{1}{2}, B=C=0, D=-\frac{3}{4}, E=1, F=\frac{1}{4}\end{align}
よって求める特殊解は
\begin{align}F_0(x)=\frac{1}{2}x^2\log x-\frac{3}{4}x^2+x-\frac{1}{4}\end{align}
したがって, 与えられた微分方程式の一般解は
\begin{align}F(x)=C_1\cos x+C_2\sin x +\frac{1}{2}x^2\log x-\frac{3}{4}x^2+x-\frac{1}{4} \end{align}
\begin{align}F^{\prime}(x)=-C_1\sin x+C_2\cos x+x\log x-x+1\end{align}
\(F(1)=0\) より, \(C_1\cos 1+C_2\sin 1=0\)
\(F^{\prime}(1)=0\)より, \(-C_1\sin 1+C_2\cos 1=0\)
であるから, これらを解いて \(C_1=C_2=0\).
以上より, \(\displaystyle F(x)= \frac{1}{2}x^2\log x-\frac{3}{4}x^2+x-\frac{1}{4} \)である.
確かに(2)の結果と同じになることが確認できました.